2018年1月28日に開催された哲学カフェ

日時:1月28日 13:00~15:30

会場:神保町 FOLIO

テーマ:「信仰と宗教について考える ~人を幸せにするのは宗教、哲学、科学、それともお金?~」

ゲストスピーカー:東洋大学長 竹村牧男先生

ゲストスピーカーの話

 宗教や信仰の分類は様々な種類がある。自然の万物に神が宿るという人、神は必ず人の姿をしているという人、または特定の神を持たず、様々な世界観や考えを反映させて形成した各人の「生き方の軸」こそが神だという人もいる。信仰も正月の神社参拝やお盆などの文化的に継承されてきたもの、特定の文化・地域に特有なものなどがある。

 信仰の本来の姿とは、自己の欲望についてむやみやたらと成就を願うことではない。例えば、病に侵されたとき「たとえ自分の命は助からなくても、社会が豊かになりますように」と願うことである。つまり、自分の努力を尽くした上で、自己の利益でなく社会や国家の繁栄を願うような姿である。

 また、宗教について、西田幾多郎鈴木大拙を中心に「自己」の観点から、お話しいただいた。

 宗教とは自己について考えたときにはじめて意識される存在である。そして日本の宗教において重要なのは、自己のふるまい方(「良い行為は良い結果につながる」等)ではなく、自己そのものとは何か、どこにあるか(在りか)である。

「自己」というものは「自己」の中にはない。自己を発見するために必要なことは、自己の「探求」ではなく「否定」である。すべてを否定して最後に残ったものが本当の自己である。矛盾していることのように聞こえるが、結果的に、自己を否定することは自己を肯定することにつながる。そして、仏教ではそのために「信」や「覚り」がある。

テーブルトーク

 私の所属したグループは竹村先生のお話を受けて、以下の2点を中心に話した。

  • 神とはどのような存在か

 神は心の支えのような存在である。例えば、病気に侵されたとき本人はもちろん薬を飲んだり、医者にかかったりといった行動を起こす。それと同時に「どうか治りますように、治してください」と心の中で神に祈る。薬や医者といった具体的な行動を起こしても治る確率は100%ではない。不確定的要素について我々は不安を覚えたりするが、神への祈願はそのような要素に対して、私たちの支えとなりうる。

 また、参加者の中には特定の宗教を信仰している方々がいた。彼らは代々家がその宗教を信仰していたというだけでなく、自分の考えや思いなどと照らし合わせ、その宗教の教えが最も合うからという理由で信仰しているという。つまり、神(宗教)とは受け継がれて根付いているから信じるというだけでなく、「自ら」選ぶことができるものなのである。

 また、特定の神(宗教)を信仰していない人にとっては上記で述べたように「心の支え」であるといえる。加えて、自分の考えや思いを反映させ、自分だけの神を創ることもできる。

  • 「自己」はどこにあるか

 竹村先生のおっしゃったように、本当の「自己」は自己の中にはない。それは自己の外にあり、自分の努力だけでは見つけ出すこと・たどり着くことはできない。本人も最大限努力をしなければならないが、努力の及ばない範囲については他人や神に委ねることが必要である。例えば、アルコール依存症の人を治療する際、本当の「自己」の姿は「アルコールに依存しない」である。そこにたどり着くには多くの場合、本人の努力だけでは到達できない。周りの人の助力も得ながら、現在の「アルコールに依存している自分」を否定し、本当の「自己」(アルコールに依存しない自分)の姿を探し、目指していく。

 ほかにも、「竹村先生のお話とフロイトが似ているのではないか」等の意見が出た。

所感

 今回のテーマである「幸せ」のためには何が必要かは各人の価値観によって異なることが多い。

 ただ、そのうえで「自己」や「神」は幸せを探求するうえで重要であると思う。幸せの主体は「自己」であり、幸せを願ううえで多くの人は神を頼るからだ。そして、自己を見つけるために必要なことは「自己の否定」と「自分以外の存在(他人や神)にゆだねること」なのではないかと今回の議論で考えた。

 結論として、「お金があるから幸せ」など、ある1つの条件を満たすからといって幸せになれるわけではない。そして、物質的なものそのもの=幸せのすべてというわけではない。(幸せを形成する一要素であることを否定しない)幸せとは形がなく、また個人の価値観に左右される相対的なものである。「自分にとって幸せとは?」と考えるとき、「自分」ばかりに焦点を当て続けるのでなく、今ある自分がすべてなくなったとき最後に何が残るだろうと考えることが重要である。そして、自己の否定は個人の力だけではできないので他人や神の力を借りる必要がある。

 

▼当日配布されたドキュメントはこちらにあります。興味のある方はご覧ください。

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