2014年7月12日に開催された第一回哲学カフェ

先日行われた「第一回 哲学カフェ」の内容を議事録にまとめましたので、ご覧ください。

日時:2014年7月12日 13時~16時
場所:サロンド冨山房Folio
記録担当:伊藤頼人

7月12日のテーマ:「死刑制度、賛成?反対?」

 

1. スタッフ井上より挨拶

l  井上円了の教育理念より「哲学は精神を鍛えるものである」

l  哲学カフェのルールを説明

  • 人の話をよく聞く。
  • 相手の意見を全否定しない。
  • 難しい言葉を使わない。
  • 平等な立場で話をする。
  • 知識で相手を説得しない。

 

2. スタッフ増田より死刑制度の現状と問題点を説明

l  現状:過去10年間の法務大臣の在任期間と死刑執行数の統計データに基づいて他の政権と現政権を比較すると、現政権は死刑の執行数が多く、刑の確定から早期に執行される傾向にある。

l  問題点:同データより、法務大臣の個人的信条と政権の方針によって死刑が執行数が異なることが分かる。執行のルールが厳格に定まっていないため、死刑囚の運命が個人的信条、政治的思惑によって人為的に変えられる。

 

3. 吉田善一東洋大学教授より死刑の歴史、思想、文化的背景について講演

l  導入

  • 2011年、国連加盟国198カ国のうち死刑を執行したのは20カ国。世界全体の傾向としては死刑を行う国が減少している。法的に死刑を禁止している国も多い。日本は死刑制度がある。
  • ヨーロッパでは死刑を「野蛮」と捉える。キリスト教の立場では更生の可能性を奪い、人権を蔑ろにする非人道的な制度である。
  • 神道では、人の命を奪うことは自然を曲げることになり、放漫であると考える。
  • 仏教では不殺生戒が説かれる。
  • 日本国民は約80%が死刑制度に賛成している。歴史的に「切腹」、「死を以って詫びる」という考え方がある。

 

l  日本の歴史

  • 平安時代は死刑制度が存在しなかった。背景には穢れの観念、怨霊信仰があったものと考えられる。
  • 平安末期から戦国時代にかけて死刑が復活し、見せしめのため残酷な方法が用いられた。
  • 江戸時代になると残酷な方法は廃止された。同じ死罪であっても武士に対しては名誉とされる切腹、不名誉とされる斬首、見せしめ野ざらしにされる獄門などのランクが存在した。この時期に仇討が法制化された。身分制度を守る手段として死刑制度が用いられた面がある。
  • 明治時代になると死刑は「斬」、「絞」のみになり、後に「絞」のみに限定された。また、仇討が禁止されたため、行政が死刑を執行する必要性が増した。
  • 第二次世界大戦後の日本国憲法においても死刑は合憲とされた。

 

l  忠臣蔵

  • 仇討を美徳とする思想が見られる。儒教の忠義の精神に価値が置かれる側面があった。
  • 討入の後、裁きを下す幕府の中でも四十七士を賞賛し、同情的な者と、厳罰を主張する者に意見が分かれた。
  • 被害者の心理を考慮すると仇討を是とし死刑に賛同することになる。

 

l  武士道

  • 江戸時代、主従関係を明確にするために切腹が用いられた。
  • 死罪に対する反感を抑えるため、切腹は名誉ある行為として美化された。
  • 切腹は洗練された自殺であり、野蛮な死刑とは区別されるという考えもあった

 

l  その他

  • 日本の文化として考えられる「和の精神」に基づくと死刑制度はどのように捉えられるだろうか。
  • 被害者と加害者が話し合い、恨みに応えていく必要性。
  • 徹底した謝罪をすること。
  • 裁判官はどのライン(罪の重さ)で死刑判決を出すのか。基準が明確ではない。

 

等の話があった。

 

4. 参加者によるディスカッション

l  死刑制度に賛成する意見

  • 余程の犯罪で無い限り死刑にはならない。
  • 身内が悲惨な事件の被害者となっても死刑に反対と言えるのか。
  • 犯罪の抑止力となる。
  • 終身刑は税金の無駄。
  • (生産活動をすれば良いという意見に対して)現在刑務所で行われている生産活動は職業訓練のためであり、採算は赤字である。
  • 無期刑でも出てくる場合がある。
  • ある国では見せしめとして体に傷を負わせる罰がある。
  • 被害者の人権が軽んじられているのではないか。
  • 外国でも宗教の名の下で殺人が行われている

 

l  死刑制度に反対する意見

  • 死刑にしても被害者は帰らない。解決にならない。
  • 加害者が1人でいる時間にこそ反省が出来る、自己を見つめ直す機会が持てる。
  • 死刑にすることは反省する機会を奪う。
  • (抑止力になるという意見に対して)死刑になりたくて大量殺人を犯す人が存在する。このような事例を考えた場合は抑止力にならないし、むしろ望みを叶えることになる。犯罪の経緯が変化している。
  • (抑止力になるという意見に対して)犯人が犯罪に至る時点で必ずしも死刑制度、量刑を考慮しているわけではない。
  • 終身刑の方がよりつらい罰となる。
  • (終身刑にすると経済的負担が大きくなるという意見に対して)生産活動、経済活動をさせれば良い。
  • 絞首刑は楽に死ねる、罰になっていないのではないか。
  • 犯罪は犯罪者個人だけではなく、社会全体から発生する。犯罪が起こらない方法を考えるべきであり、死刑は対処療法に過ぎない。社会の質を高めるべき。
  • 仇討ち、恨みを晴らすという観念がまだ残っているのではないか。
  • 死刑以外の刑は更生を目的としている。死刑だけはその目的とは合致しない特別な存在となっているのではないか。

 

以上のような意見が出た。