2019年1月20日に開催された哲学カフェの記録

日時:2019年1月20日(日)13:00〜15:30
場所:サロンド冨山房FOLIO
ゲストスピーカー:竹村牧男氏(東洋大学学長)
テーマ:鈴木大拙の華厳学 自己と他者の関係はどうあるべきか

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ゲストスピーカー講話 要旨とキーワード

  • 鈴木大拙:華厳宗を高く評価し、これこそが理想的世界建設の中心的理論にふさわしいと考えた。そこで、これを中心的理論に据えることで、戦後日本の民主的社会形成達成を促そうとした。欧米人に大乗仏教を広める数々の活動を行ったが、それによって海外から高い評価を得た。「世界人としての日本人」
  • 「事事無碍法界」:華厳思想における四法界(仏の見ている世界)の1つ。知性・感性の世界(人間の生きる世界・現物の世界)である「事法界」と霊性的世界(空の世界・仏の世界)である「理法界」が共存する世界。各世界が溶け合っているように見えても、各世界は個々としてそこにある。我々の生きる世界。※これが相手と自分の関係を考えるヒントとなるのではないか。
  • 「理事無碍法界」:理法界と事法界の境界が無くなった世界。理想がある世界。
  • 仏の教えは、論理を使用して「存在の秘密」を暴き立てたりするような冷たいものではない。一切衆生を包み込む暖かなものである。知性の結晶や、論理を使用した冷たい行いといった抽象的なものでなく、人々1人1人の経験に基づくものである。
  • 相手に尽くしてこそ、自分も成立しうる。他者との無限の関係の中で「自分」がある。全体と個は一連環であり、片方のみで成立することはない。
  • 他者のいうことに奴隷的に従うのではなく、自主性を育んでいくことが大切である。自主性とは、自身だけで完結するものではない。自らを尊ぶことは、他を尊ぶことと同じ。他者を自分より大きなものと認識し、それにただ付き従うことは、自己否定と同義である。

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参加者からの質問

  • 鈴木大拙は海外で評価されているが、日本では広まらなかったのはなぜ?
  • 「大慈心」と「慈悲心」に違いはあるか、あるならばその違いは何か。等

所感
現実で役に立つ「実学」が重視されるあまり、現実や具体的なものと結び付けにくい宗教や哲学は敬遠されがちである。しかし、長年、継承されてきた宗教の教えは現実世界の答えなく、不安の多い社会で生きる私たちに道筋を示し、ヒントを与えてくれるだろう。特に、鈴木大拙の研究は、戦後の社会復興と仏教を結び付けることを試みたので、その研究を学ぶことは、とても有用であろう。

当日配布された資料(※画像をクリックするとPDFが表示されます)

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